今“ファッション好き”を名乗るなら OnlyFans アカウントはマスト?
ファッションにおける“創造の自由”が思いもよらない場所で見出されている模様
ファッション界は昔から、少しばかりの物議を醸すのが好きだ。シアー過ぎるドレス、過剰な肌見せルック、挑発的なキャンペーンのような演出は、この業界のDNAの一部と言っていい。けれど、そんなセンセーショナルなビジュアルを『TikTok(ティックトック)』に今アップしたら、高い確率でフラグを立てられるか、アルゴリズムの奥底に埋もれて、あなたのフィードまで届かないだろう。“見られること”で成り立ってきたこの業界は、いまや“なにをどう見せるか”をこれまで以上に慎重に考えざるを得なくなっている。
近年、お馴染みの曖昧な『TikTok』のモデレーションポリシーにせよ、『Instagram(インスタグラム)』での“ニップル”をめぐる不可解な基準にせよ、クリエイターたちの間で絶えないシャドーバン疑惑にせよ、ソーシャルメディアはこれまで以上に検閲色が強くなったように感じられる。一方でブランド側は、アルゴリズムを攻略するプロになりつつあるが、そこでふと浮かぶ疑問がある──彼らはすでに“アルゴリズム前提”でデザインまでも変え始めているのでは? 今は“アルゴリズミック・モデスティ”(アルゴリズムにあわせた慎ましさ)の時代となりつつあるようだ。
少しディストピア的に聞こえるかもしれないが、話は単純。デザイナー自身が保守的になったからファッションが大人しくなっているわけではない。むしろ適切かどうか、広告主向きか、大衆にとって安全かどうかといった、機械が読み取れる基準(しかも一部の関係者が決めた基準)を通して、美意識そのものがふるいにかけられ始めている。いわば“ファッションの可視性税”のようなものだ。
デザイナーたちはこれまでも、予算、素材不足、生産遅延、サステナビリティといった制約のなかで工夫を重ねてきた。そこに今、意外な新しい制約として浮上しているのがソーシャルメディアのモデレーションだ。“コレクションの見せ方=マーケティング”だけでなく、そもそものデザインの段階から、その影響が入り込みつつある。
デザイナーが装っているのはもはや身体だけではなく、アルゴリズムそのものでもある。だからこそ、一部のブランドはまったく別の場所を探し始めたのかもしれない。とはいえ、半年で消えそうな『Instagram』代替アプリの話ではない。ここでの主役は『OnlyFans(オンリーファンズ)』だ。
『OnlyFans』はアダルトコンテンツのイメージが根強く、今もなお多くのカルチャー的な偏見を背負っている。にもかかわらず、静かにファッション業界にとって最も意外なクリエイティブの遊び場のひとつになりつつある。
〈Rick Owens(リック・オウエンス)〉はなんと、足元の写真だけをアップするアカウントを開設。一方で〈Poster Girl(ポスターガール)〉はこのプラットフォームとコラボし、クリエイションのプロセスにまつわるコンテンツを発信している。この決断について、〈Poster Girl〉の創業者たちは「OnlyFansなら仲介者を挟まず、自分たちをどう見せるか、どんなコンテンツを出すか、どうマネタイズするかをクリエイター自身が決められる」と話す。
他にも、このプラットフォーム上には〈Collina Strada(コリーナ・ストラーダ)〉〈LGN Louis Gabriel Nouchi(ルイ ガブリエル ヌイッチ)〉〈Elena Velez(エレナ・ヴェレス)〉、ジュエリーデザイナーのジョニー・ホクストン(Johnny Hoxton)、そして最近では〈PLEASURES(プレジャーズ)〉などが名を連ねる。
各ブランドは、このプラットフォームをクリエイティブなエコシステムの一部として活用し、デザインの舞台裏日記やスタジオへのアクセス、ランウェイ映像から限定コンテンツまで、幅広いコンテンツを共有している。2026年に本気でファッションを追いかけるなら、『OnlyFans』のアカウント開設は視野に入れておいたほうがいいかもしれない。
とはいえ、これはファッションがよりエロティックになるという話ではない。ここで起きているのは、単なる挑発以上に興味深い変化だ。審査基準が見えないモデレーションによって“何が良し”とされるかを決める既存のプラットフォームから距離を取り、コンテクストやストーリーテリング、そして親密なオーディエンスとの関係性を、自分たちでコントロールできる場所へとデザイナーたちは移動しつつあるのだ。
LGN x OnlyFans shot by Tré Koch
たとえば〈Louis-Gabriel Nouchi〉は、今年初めに『OnlyFans』チャンネルを立ち上げ、そこでしか観られない映像や舞台裏のドキュメンテーション、ASMR的なサウンドの実験、アーティストとのコラボレーションなどを配信している。またデザイナー本人は、『Fashion Files』の“OFTV”(OnlyFansの無料ストリーミングプラットフォーム)のエピソードにも登場し、コレクション制作の現場を大胆に公開している。
デザイナーのヌイッチは『Hypebae』に対し、このプラットフォームを選んだ理由について「僕にとって重要だったのは挑発ではなく“誠実さ”です」と語る。「ファッションはしばしば身体や親密さ、欲望について語るのに、多くのソーシャルプラットフォームはクリエイターに、アルゴリズムやモデレーションポリシーと絶えず駆け引きすることを強いているのです」。
『OnlyFans』とファッションのこれからについて尋ねると、ヌイッチは「これはまだ始まりに過ぎないと思います」と答える。さらに「ラグジュアリーブランドは今、単にリーチ数を追いかけるのではなく、コミュニティと直接的な関係を築ける場所を求めるようになっています。ファッションは“拡声器的な大量発信”ではなく、アクセスや物語性、排他性をどう生み出すかへとシフトしているんです」と続ける。
『OnlyFans』は、そんな流れのなかで明らかに独自のポジションを築きつつあるようだ。ヌイッチは「OnlyFansがInstagramやX、その他のプラットフォームの代わりになるとは思っていません。むしろ、ブランドがよりキュレートされた、没入感のある、エディトリアルな関係をオーディエンスと築ける“補完的な場”になっていくと思います」と語る。「僕にとって大事なのは、検閲から逃げることではなく、クリエイティブの可能性を広げることです」。これは必ずしも、ファッションの“ポルノ化”を意味しない。むしろ、アルゴリズムが決める“趣味嗜好”から距離を取るための“脱プラットフォーム化”と言えるだろう。
『OnlyFans』では、ユーザーはスクロールの途中でたまたまコンテンツに出くわすのではなく、自ら意図してそこにたどり着く。サブスクライバーは自分の意思で参加を選び、クリエイター側はコンテンツのテンポや見せ方、アクセス範囲を自分でコントロールできる。こうした構造は、いまオンライン全体で起きている、もっと大きな変化の一部でもある。ファッションメディアはどんどん細分化し、オープンなウェブから、クローズドなエコシステムや、自ら選び取るコミュニティへと軸足を移しつつある。
ライターたちは『Substack(サブスタック)』を立ち上げ、ブランドは『Discord(ディスコード)』チャンネルを運営し、デザイナーは『Patreon(パトレオン)』風のメンバーシップを試している。“OFTV”も、SNSというより、ファッションが自分たちのルールで存在できるストリーミングサービスに近い。かつては“バズること”がゴールだったが、今は“どうアクセスさせるか”のほうが重要になりつつあるのかもしれない。
デザイナーたちは、もはや注目を集めることだけを追いかけてはいない。エンゲージメント指標に平板化されたり、広告主向けに薄められたりせずに、クリエイティブな意図がそのまま存在できる環境を求めている。これからのオンライン・ファッションは、全員が同じ巨大フィードを共有する世界ではないのかもしれない。
むしろ、そこに集うことを自ら選んだオーディエンスに向けて、デザイナーがダイレクトに語りかける、小さく自律した世界がいくつも並列するようになるだろう。そう考えると、「なぜファッションがOnlyFansに参入するのか」というより、「そもそもメインストリームなインターネットは、クリエイティビティにはクリーンすぎる場所になってしまったのではないか」という問いのほうが、今の時代にはしっくり来るのかもしれない。



















